小説「屍人荘の殺人」にガッカリしたあの頃と、今のわたしとの違い【ネタバレ有】
「屍人荘の殺人」/今村昌弘
「とにかくすごい!」「こんなの読んだことがない」「驚くこと間違いなし」
そんな紹介文句が軒を連ね、とても興味を惹かれたのを記憶しています。
この小説を初めて読んだのが、2018年の春頃。
当時、王様のブランチの小説ランキングで紹介されたことが出会いでした。
ハードカバーの重みを感じながら、わくわくしてレジに持っていたいったなー。
しかし、あの頃のわたしは、想像とは全く違う反応をすることになるんです。
ミステリーとは
夏の合宿
「今年の生贄は誰だ」という脅迫状
過去の自殺者
やたら出てくるクローズドサークルという言葉
べったべたな展開で始まる物語。
ミステリ愛好会という、うさんくさいサークルに所属する主人公の葉村くんと、「神紅のホームズ」と呼ばれるミステリーオタクの明智くん。
こういう、よくあるコンビが出てくるところも好き。
わたしは好きな運びです。
ここまでは。そう、ここまでは。
読み手にも襲う不穏な気配・・・
ペンションである紫湛荘に向かう途中の発言に、伏線は隠れていました。
「夏とレジャーと若者といえば、僕はミステリよりパニックホラーを思い浮かべますけどね」
「そうそう。ああいう舞台ってたいてい夏じゃないですか。そして羽目を外しているメンバーが真っ先に餌食になる」
「僕らはその餌食ってわけだ」
こんなあからさまな発言があると、それはただのフリだと思うわけですよ。
そう言ったって、そんなことは起きやしないだろう。
それがミステリーだろうって。
でも、わたしが言う「ミステリー」とはなんだったんだろう。
ここから、そう考えざるをえない作品になります。
まさかの展開
徐々に迫りくる、敵というか災いの影。
62ページの辺りでは、それはまだ現実的な細菌兵器だと思っていました。
ただ、不気味な一文が気になる。
もう後戻りはできない。これが彼らの革命の始まりであり----人生の終わりだ。誰一人として革命の結果を目にすることはできないだろうし、仮にそれが叶ったとしてもその時の彼らは意味を理解できはしまい。
「その時の彼らは意味を理解できはしまい」
死んじゃうからかな、って予想もしました。
すぐに、そういことか、と納得しちゃいますが。
そう、ここで本作最大のネタバレ。
この物語の鍵となるのは「屍」すなわち「ゾンビ」だったんです。
それはもう、とても驚きました。
これだけ話題になっていたけど、ネタバレはほとんど目にしなかったんで、ここまで読むまで本当に知らなかったんです。
そのおかげで衝撃が走りましたし、わたしは本を閉じました。
ホラーが苦手
わたしはホラーが苦手です。
ゾンビが出るのも苦手。
しかも、クローズドサークルのように逃げられない環境だとなおさら。
夢に見ちゃうんですよね。
読み進めたい気持ちはあったんですが、展開的にゾンビは出続けるっぽいし、わたしは家にひとりだし←
色んなことが気になって夜寝られない気がして読むのをやめてしまいました。
大きな期待を持って購入したこの作品に、ガッカリしてしまったんです。
ミステリは自由
本誌のはじめに、今村さんが鮎川哲也賞を受賞したことへの言葉を綴っています。
その中にあった心に残る一文がこちら。
恐れ多いのですが、実は本格ミステリに傾倒していたわけではなく、良き本格ファンなどとは口が裂けても名乗れない身なのです。そんな私が「読んだことのないミステリを!」という一念で書き上げた作品がこのような栄誉を賜ったのですから、本格ミステリとは私が思い描いていたよりもはるかに自由で懐の深いものなのだと実感しました。
本を閉じた、あの頃のわたしにはこの言葉が届いていませんでした。
今村さん、半端な人間だったわたしを許してください。
今回、映画化することになると聞き、読み進めていなかったこの作品が気になり改めて読みました。
再読は一気読み必至
さて、一年半前に読んだところをおさらいし、未知の領域へと進みます。
肝試しでゾンビが出てきたところ。
ここら辺りで以前は断念しました。
しかし、今回のわたしは違う。
ゾンビに対する恐怖心が半減しています。
過去に持っていた苦手意識はなくなり、純粋に話の先が気になり一気に読み進めました。
鳴りっぱなしの鼓動
ただ、やはりゾンビの存在は色濃く恐怖を運んできます。
最後まで緊張と不安の連続でした。
印象に残っているところしては、明智さんが襲われた場面。
序盤から鼓動が早くなりました。
ほんわかしたサークルコンパで訪れた紫湛荘は、一変して屍人荘にります。
そう考えると、もうタイトル自体も伏線なのか?!
なんなんだよ!ゾンビが発生って!
と、頭がこんがらがってくるところに、ゾンビ大好き重元くんの解説はこの話の複雑化を解く鍵となっていきました。
「ゾンビの発生は必然だった」
そう重元くんが考察することに、現実的な恐怖をわたしは感じました。
なんだか、いつか現実の世界でも起こってしまうんではないだろうか、って。
そう考えると、この小説は現実離れしたものとは思えなくなりますね。
ただ、「ウォーム・ボディーズ」という映画の話題が出た時はちょっと安堵した。
あの映画はわたしも大好きで、ゾンビの概念が覆りました。
もし、ゾンビについて苦手意識がある方は、この映画を観て頂きたい!
あんな緊迫した場面で、重元くんがチョイスする理由も納得ですから。
ミステリーに対する偏見を捨てる
「こんなミステリー読んだことない!」
読み終わって、やはりそう思わされました。
というか、わたしはミステリー作品に考えが随分偏っていたんだな、と考えさせられます。
ミステリーは好きだけど、あくまでもそれは、わたしが望むような作品を好きだったわけで。
読みたいものを読めばいいんすが、思い込みで作品を決めつけ批評するのは良くなかったと素直に反省しています。
恐い、と思うことはしょうがないし、それも作者の意図かもしれませんが、そういった感情は置いといて読んでみるというのはわたしに必要だな。
班目機関の思惑とは
これはパンドラの匣(はこ)というより。戸棚だ。かつて、班目機関と呼ばれた組織の残した戸棚。今日彼らが開くのは、その引き出しの一つに過ぎない。
読み終わっても後を引き、気になる一節。
廃ホテルに置き去りとなった手帳も、重元くんが持って行った後は分からないままです。
屍人荘の続編も出ているとのことで、この辺りにまた触れていたら嬉しいな。
おっと、また期待が一人歩きし始めている。
でも、期待することは悪いことではないのかな。
作品に対する望みが叶えられなかったとしても、それはそれと割り切る読み手の気持ちが大切なんでしょうかね。
映画版も期待大
既に公開が始まっている映画版。
何を隠そう、わたしは神木隆之介くんが大好きです。
そう、大好きです!!!!!
神木くん演じる葉村くんは、すごく、いいのではないかと思い、観たい気持ちが高まっています。
ただ、先にお伝えした通り、ホラーは苦手。
ゾンビを映像で観るのはきついかなあ・・・。
それでも、あそこまで細部に凝った話がどう収まるのかは見ものですね。
もし、同じようにゾンビの登場に本を閉じてしまった方がいたら。
ゾンビが出てくる前提で読み進めると、楽しく一気に読めます!
どうぞ、改めて本を開いてください。
続編も読んだらまたレビューしたいと思います◎